合田道人

童謡謎解きマップ

合田道人が多くの童謡の謎を解きます

ゆうやけこやけ

作詞:中村雨虹 作曲:草川信(大正12年発表)

東京・八王子 日本の中でもっとも歌碑が多く建てられている童謡が13箇所とも14箇所とも言われている。どのふるさとにも、どの風景にもマッチする童謡こそが「ゆうやけこやけ」なのです。

 でも、「ゆうやけ」は分かるけど、「こやけ」ってなあに? と、単純な質問を頂きます。「こやけ」は、“子焼け”で家路を急ぐ子供の顔が、夕日で真赤に照らされている……などという解釈もあるらしいのですが、こやけは“小焼け”と書いた言葉の語呂で、“大波小波”“大判小判”や、“ねんねんころりよ”といった類いだというのが一般的です。

 昨年の9月1日、朝日新聞の『天声人語』に私の本と「ゆうやけこやけ」のことを書いていただきました。私が推察する「この歌の歌詩は、時代が作った歌である」を取り上げてくれたんです。うれしかったですよ。
 9月1日といえば、関東大震災の日です。この歌は関東大震災によって流布したと思わずにはいられないのです。

 この歌が発表されたのは震災の1ヶ月前、7月31日のことでした。ピアノを買ってくれた人へのプレゼントの楽譜集に載せられました。当時はピアノなど買う人はほんのわずかでしたから、当然この歌は流行する歌ではなかったのです。震災のため、この譜面も消え失せたった十三冊しか残されなかったのです。しかし、この歌は生き延びたのです。

 作詩家であり教員だった中村雨虹の夫人の妹、梅子も教員だった。震災で親を亡くした子供を勇気づけるために、義兄が作ったこの歌を教えたのです。素朴な詩が、子供たちから大人たちへ焼け野原に急速に広がっていったのです。

 実はこの歌詩が人々のこころを捕らえたのです。♪ゆうやけこやけで 日が暮れて……、まるで夕焼けのように燃え盛った震災の火もやっと消えた。♪山のお寺の 鐘が鳴る……、しかし大切な人は帰らない。お寺とは死者が弔われる場所である。♪お手々つないで 皆帰ろう……、 いや、もう一緒に皆で帰ることはできなくなった。♪からすと一緒に帰りましょう……、からすは死者の使いとも、死者の魂を宿しているとも言われる。からすだけが一緒に帰ってゆく。

 あまりにも哀しい詩に人々は想像した。2番の歌詩もしかり……。「ゆうやけこやけ」が大勢に歌われるようになるのである。

この謎解きが入っている本

文庫本「こんなに深い意味だった 童謡の謎3」(税込600円)