合田道人

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「忘れな草をあなたに」(2004年7月第24号より)

 7月2日にテレビ東京恒例の「第35回夏祭り!にっぽんの歌」に出演させてもらった。共演のみなさんから「久しぶりに歌うの?」とか「司会?」と聞かれたが、実は作家としてゲスト出演したのである。

 私が著した「案外、知らずに歌ってた 童謡の謎」の一部分、童謡「赤い靴」の秘話を、日本を代表する大女優、倍賞千恵子が朗読しながら歌うというコーナーでのゲストだったのだ。

 小さいときから大好きだった彼女と、ここのところ大変お付き合いが多い。

 私の本を読んで、「今度のコンサートは童謡を主としたものにしたいので、合田さんに台本を……」とお願いされ、7月からスタートするコンサートのリハーサルで何度もお会いした。

 今回のコンサートの最初のほうは「夏の思い出」「かなりや」「月の沙漠」などの童謡や愛唱歌を中心にした構成で、クライマックスとして先日のテレビで放送した私の本を朗読しながら「赤い靴」を歌う。彼女は最初、童謡歌手だった。つまり、"原点"倍賞千恵子の世界である。

 中盤は"女優" 倍賞千恵子の生き様を語りながら、「さくらのバラード」などを歌い、11月公開で主人公の声の出演と、主題歌も歌う宮崎駿原作の「ハウルの動く城」などの話をする。

 そしてラストのコーナーは"歌手" 倍賞千恵子の装い。「紅白歌合戦」に出場して歌ったヒット曲のオンパレードである。

 倍賞の「紅白」初出場は、昭和38(1963)年。42(67)年から、どちらかといえば「紅白」自体、歌手だけの祭典というイメージが強力になったため、吉永早百合、森繁久彌らとともに出演しなくなったが、今回のコンサートの中では、「紅白」で歌った「下町の太陽」「瞳とじれば」「さよならはダンスの後に」「おはなはん」の全4曲を久々に披露する。

 ところが彼女によってリバイバルヒットし、次世代にまで歌い継がれるようになった「さくら貝の歌」も「忘れな草をあなたに」も「紅白」では歌っていないのだ。
「忘れな草~」は倍賞が「下町~」で初出場した38(63)年、女声重唱団のヴォーチェ・アンジェリカによって吹き込まれ、40(65)年には梓みちよが発売したが、いずれもヒットせず、46(71)年8月になって倍賞が再リリースするとヒットした歌である。遅れること3ヶ月、菅原洋一が競作したことでより広がり、いつの間にか昭和の名曲に育った。

 この年のはじめには、森繁久彌の「知床旅情」も加藤登紀子とともにヒット、ちょっとしたリバイバル競作ブームの年だったが、「紅白」では「知床~」を加藤、「忘れな草~」は菅原が歌唱、俳優陣が一歩退いた形をとった。

 だが、今回のコンサートでは、やはり"歌手"倍賞のヒット曲として、アンコール曲に用意している。私が監修、解説しソニーから発売した「倍賞千恵子 ゴールデン☆ベスト~まるで映画のひとこまのように……」では近年録音の「忘れな草~」を収録したが、その変わらぬ美声、女優ならではの説得力ある名唱は、まさに感動を憶えずにはいられない。