合田道人

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「コーヒーショップで」(2004年8月第25号より)

 10月15日に東京五反田のゆうぽーとホールで、(社)日本歌手協会の恒例「第31回歌謡祭」が開かれる。歌謡曲、演歌はもちろんジャズ、シャンソン、童謡、民謡まで名誉会長の田端義夫、会長の青木光一、副会長のペギー葉山、橋幸夫はじめ若手からベテランまで昼夜100名の出演者による歌の祭典である。私は今年も構成と司会を仰せつかっているが、今年の司会のお相手は、昼の部が理事長の水前寺清子、夜は初顔合わせ、あべ静江である。

 あべ静江ことシーちゃんは、三重県の出身。美人ディスクジョッキーとして人気を得た後、昭和48年('73)年に「コーヒーショップで」で歌手デビューを果たした。

 ♪古くから 学生の町だった・・・・で始まるどことなくペーソス漂うフォークタッチの歌。清潔感あふれる彼女の個性はたちまち人々の心をとらえ、大ヒットを記録した。年末の新人賞レースでも常連だった。

 この年の賞レースは何しろ女性アイドルたちが華々しく火花を散らしたものである。あべのほかに、アグネス・チャン、桜田淳子、山口百恵、安西マリア、浅田美代子らがみなヒットを持って並んでいた。だが、この中から誰が最優秀新人賞を獲るかということより、誰がデビュー1年目で「紅白」出場切符を手に入れるかといわれるほどの新人豊作の年でもあったのである。下馬評では最終的に「レコード大賞」最優秀新人賞を受賞した桜田淳子、さらに山口百恵は「紅白」落選と見られていたが、前年暮れにデビューし、「ひなげしの花」「妖精の詩」「草原の輝き」と3曲大ヒットを飛ばしたアグネス・チャンは当選確実と見られていた。そして、まだ「コーヒーショップで」一曲だったものの、あべ静江はかなり善戦、ほぼ出場確実と見られていた。

 しかし当時は、デビュー1年目の歌手の入選はあまり例がなかった。デビュー曲のヒットはもちろんだが、それに続く2作目、3作目もヒットさせ、国民の支持を受け、人気を安定させなければ、出場できない番組こそが「紅白歌合戦」だったのである。

 現に前年の新人賞歌手である「雨」の三善英史、「せんせい」の森昌子、「芽ばえ」麻丘めぐみ、「男の子女の子」郷ひろみは、全員大ヒットを持ち合せながら出場できないでいた。

 さて発表日。この年最大の話題は美空ひばりの落選だった。弟が不祥事で逮捕され、ひばりの人気アンケートの順位が、前年の横綱級から幕下まで転落、新聞は「国民感情、許さず! ひばり落選」と報じたのである。ここからひばりとNHKの対立ムードが高まったということになる。初出場は、2年目の三善、森、麻丘、郷が仲よく出場を決め、史上初の大ヒット、360万枚の売り上げを突破した「女のみち」のぴんから兄弟、「なみだ恋」の八代亜紀の演歌勢もうれしい初出場を飾った。

 さて問題の新人軍は? 下馬評どおりにアグネスがパスしたにもかかわらず、ほぼ確実だったあべ静江の出場が見送られたのである。やはり1年目、一作だけでは不出場というジンクスは破れなかった。結局デビューヒット「コーヒーショップで」は「紅白」に歌われることがなかった。

 翌年ヒットを続けて、あべは見事に初出場する。

 今年の歌手協会の「歌謡祭」、まだ構成は済んでいないが、司会のシーちゃんには、やはり歌も披露してもらおうと考えている。

 「紅白」で歌っていない「コーヒーショップ」か、初出場のときの「お元気ですか? そして今でも愛していると言ってくださいますか?」の「みずいろの手紙」か、現在思案中である。