合田道人

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「リンゴの歌」に隠れた「バナナ娘」並木路子

 8月15日が近づくと毎年この歌がどこからともなく聞こえてくる。♪赤いリンゴに唇寄せて・・・・。敗戦の巷に流れた明るい「リンゴの歌」にどれだけの日本人が慰められ勇気づけられたことか。この歌に出会わなかったら現在の明るい日本はあっただろうか・・・・といわれるほどだ。

 この曲をレコーディングしたのはベテランの霧島昇と新人・並木路子だったが、これを主題歌にした戦後最初の映画「そよかぜ」が並木主演だったこともあり、並木単独の歌として50年以上の生命を保った。

 この大ヒット一曲で並木は"リンゴの女王"ともてはやされて地方巡業でも当時としては稀なワンマンショーを行って客を動員できる歌手にまで育った。ゲストに先輩の霧島昇の名があり町に刷られるポスターまで並木の方が大きく扱われた。それに憤慨した霧島がその日になって出演をキャンセルしたという話まで残っているほど並木の人気はすごかった。

 だからどうしても並木が後々出演する懐かしの番組でも「リンゴ~」以外聞いたことがないと言っても過言ではない。

 「リンゴ~」に隠れた一曲に果物シリーズとして出し、当時流行した「バナナ娘」がある。これも並木、そして柳家金五楼、清川虹子、それに並木一路らのキャストで作られた新東宝映画「バナナ娘」の同名主題歌。「リンゴ~」と同じサトウハチロー作詞、万城目正の作曲だ。

 ストーリーは、戦災孤児役の並木が、チンピラにからまれている所を金五楼扮する富豪に助け出される。彼が口を利いてくれた職先がバナナ売りで歌いながら並木がバナナを売る。それが評判になりレコード会社のプロデューサー役の清川がスカウトして人気歌手に育て上げるというコメディータッチの作品。

 日本はもとより、バナナの産地、台湾でも話題化し"台湾版バナナ娘"も制作されたがその際も台湾の俳優を向こうに回し主演したのが並木。「リンゴもそうですけどその頃はバナナも大変貴重で贅沢な果物でしたでしょ。見ることもできない頃でしたけど、この映画のお陰で台湾からたくさん送ってもらったりして」

 並木は、来年で喜寿。松竹少女歌劇団に入団し初舞台を踏んで60年目を迎える。

 「記念の新曲をという話も頂いてるんですが、もう一曲は77歳の声で"リンゴ"か"バナナ"をやろうと思っているのよ。」と少女のように可愛らしく語ってくれた。

 今なお"並木路子ショー"で「リンゴ~」の次にリクエストが多いのがやはりこの「バナナ娘」。歌劇できたえた77歳とは思えない振り付きで唄うステージは相変わらず華やかさがある。

 なおこの2曲に次いで果物シリーズ第3弾として「パイナップルと私」を昭和28年にリリースしたが、こちらは意に反して空振りだった。(昭和25年発売)