合田道人

連載記事

雑誌の連載記事のご紹介

「テネシーワルツ」に隠れた「思い出のワルツ」江利チエミ

 2月13日が彼女の命日である。今年で彼女が逝って16年も経つ。時の流れの早さにただただ驚いてしまう。

 天才少女歌手・江利チエミがデビューしたのは昭和27年。『テネシーワルツ』、14才のときである。戦時中は禁止されていたジャズやアメリカンポップスがせきを切ったようにこの頃大流行。池真理子、ナンシー梅木、ティーブ釜范らジャズシンガー続々誕生の中で長い間人気を保持したのは彼女だけ。それは彼女の声質と天才ゆえに授かった芸の幅がそうさせた。彼女の声は十代とは思えぬ太さがあり、黒人のジャズ向きと同時にいわゆる小節が入るという唱法でとくに日本人に受け入れやすかった。それが後々、芸の幅へとつながってゆくわけだ。

 高倉健との結婚で引退記念のつもりで吹き込んだ『さのさ』や『木遣くずし』といった民謡、俗曲をレパートリーにし、一方で映画女優として『サザエさん』などでの明朗なキャラクターが大受けする。日本ミュージカルの元祖として『マイフェアレディー』や『スター誕生』に出たかと思えば司会に作詞作曲となんでもばっちりこなしてしまう――まさに天才。

 そんな彼女のこの一曲となればやはりデビュー曲の『テネシーワルツ』ということになるだろうか。この『テネシー~』に隠れた歌としてデビュー2年目に発売した『思い出のワルツ』がある。

 この歌、タイトルにワルツはつくが、三拍子のワルツではない。"思い出"のワルツなのだ。ワルツの思い出を四拍子で奏でている。まだ外国へ行くことなどまれだった昭和28年、チエミは英語の勉強とバカンスを兼ねて渡米した。その最中、マネージャーでもある兄から突然手紙が届く。国際電話などまだない時分だ。手紙の内容は「チエミ大変だ!チイちゃんが日本へ帰ってきて歌おうとしている『ティル・アイ・ワルツ・アゲイン・ウィズ・ユー』を歌ってデビューした子がいるよ」

 チエミ、勉強を投げ出して早々に帰国。空港で花束を抱いて迎え待っていたのが、その歌『ティル・アイ~』日本語題『想い出のワルツ』でデビューしたばかりの雪村いづみであった。

 競作というスタイルでチエミもひと月後れて、こちらは『思い出のワルツ』として出したが、新鮮力のいづみが圧勝。チエミの影薄れる。

 しかしこれを縁に2人は"無二の親友"となり、チエミ亡き後、いづみはチエミの歌を歌い継ぎ"テネシーワルツ"と題した絵も画いた。今となれば『テネシーワルツ』こそ本当の意味の『思い出のワルツ』なのかもしれない。